コーチングのトレーナーとしてCOCORO保育園の開設以来、新卒研修からミドルリーダーまでの育成を担当していただいている株式会社サイタコーディネーションの江藤 真規さんから9月5日に階層別職員研修の園長主任への報告会を行いました。
江藤さんの了解をいただき、当日の資料を開示させていただきます。
保育だけでなく、うちの法人であれば介護や障がいの事業も含めて対人サービス全般に活かせる内容ですから、参考にしていただければ幸いです。
1. 研修の背景
• 年々園数が増える現状に対して、職員育成を体系化していく必要がある(属人化させない)
• 管理職については、外部の研修会社での対応も可能だが(特にマネジメント関連)、入職後間もない職員に対しては、外部でありつつ、「顔が見える関係」で寄り添っていくことが必要
• 職員数も相当な人数のため、法人としての「統一感」を持たせておくことも大切
2. 保育者の成長
「保育者としての成長」には時間がかかる上、個人の経験・知識はマニュアル化して園内で共有することが難しい。「保育者としての成長」を段階的に理解しておくと、今この職員には、どのような景色が見えているのかを知ることができ、支援がしやすくなる。
【保育者の発達段階モデル】
① 直線的に単一の原因を考えたり(あの子が取り乱しているのは、朝、家で何かがあったに違いない)、二分法的に判断したり(今子どもは遊んでいるから、学習はしていないのだ)しやすい
② 子どもへ過剰に注目したり、援助が必要な子どもの要求を拒むことができず際限なく自己を与えてしまう(自己犠牲)
③ 現実を事実として評価し、そこで役に立つことや自分の追うべき責任を考えることができるようになる
④ 保育の質に関心を払うようになり、子どもと関わる保育だけではなく、親や家族、子どもを取り巻く関係性に働きかけることの必要性を認識できるようになる
⑤ 自らの経験と物の見方の参照枠組み(物事を理解し判断する際の基準)が統合されてくる
⑥ 保育のスペシャリストとして自律的に働くことができる
参考:Vander Ven,1988
①直線的・二分法的理解(〇〇だから〇〇だ)
↓
②子どもへの過剰注目・自己犠牲(要求を拒めない)
↓
③現実を事実として捉える
↓
④保育の質への関心と子どもを取り巻く環境への働きかけ
↓
⑤経験と参照枠組み(物事を理解し判断する際の基準)の統合
↓
⑥スペシャリストとしての自律
3. どうすればこのプロセスを辿れるのか
<研修で組織へのエンゲージメントを高める>
• 職場での適切な育成(保育を見せる・考えさせる)
• そのためにマインド面(働きがい)を高める
• マインド面:「私の居場所感」「私にもできる」「保育っておもしろい」「成長している」「自分の考えを認めてもらえた」
• スキル面を伝える土台には、マインド面が必要
<研修で「伝え方/引き出し方(コーチング)」を磨く>
• 暗黙知を形式知にする(言語化する・属人化させない)
• 他者との関わりを高める(コミュニケーションが鍵)
• 職場の人間関係を良好に
• 言葉で伝え合う環境をつくる・伝える技術/引き出す技術を磨く
<研修で自分の未来像をイメージする・社会課題を知る>
• 組織全体を見る目を培う(視野を広げる・見えないものへの意識)
• 自分の立ち位置を考える(チームとしての力を考える)
• マネジメントに関する知識を持つ
• リーダーシップのあり方を知る
4. 保育者に求められるリーダーシップ
• 保育者に求められるリーダーシップ:サーバントリーダーシップ
• 自分の力で引っ張るのではなく、メンバーが力を発揮できるよう環境を整えるという方法
• リーダーシップのプレッシャーに悩む多くの普通のリーダーに実行可能なもの
矢藤 誠慈郎(2017)保育の質を高めるチームづくり.わかば社
5.(参考)リーダーシップのいろいろ
• ビジョン型:組織にビジョンを示し、メンバーをその目標達成に向けて導く
• コーチ型:メンバーの成長を促すために、コーチのように指導・育成する
• 関係重視型(仲良し型):チーム内の人間関係を重視し、信頼関係を築くことで成果を出す
• 民主型:メンバーの意見を広く聞き、合意形成を図りながら意思決定をする
• ペースセッター型:高い水準のパフォーマンスを求め、メンバー自身にもそれを実行するよう期待する
• 強制型:トップダウンで明確な指示や命令を下す
ダニエル・ゴールマン
6.研修の目的
• STEP1(経験2年目) 〜自分を客観視する・エンゲージメント・言語化の練習
1. これまでの自分を振り返り、今後の見通しをたてる
2. 自分の思いを言葉にすることで思考を整理し、意欲向上を図る
3. 保育の価値や責任について改めて考える
4. 自分を支えてくれる周囲の存在に気づく
5. 具体的な問題(課題)を洗い出し行動につなげようとする
6. 組織へのエンゲージメントを高める
7. 節目である3年目になる前に、仕事の進め方を再考する
• STEP2(経験3年目) 〜チームへの意識・課題があるから解決できることを知る・コミュニケーション力
1. 保育ができるようになってきた3年目の自分を省察する
2. 保育者としての自負を高め、今後のあるべき姿を模索する
3. 職場の人間関係を客観視する
4. 自らの課題を言語化し解決に向かう
5. チームで行う保育の価値(チーム力)を高めようとする
6. 職場のホウレンソウの徹底のための方策を共有する
7. 職場のコミュニケーションを活性化させる工夫を考える
• STEP3(経験4年目) 〜ミドルリーダーとしての自分を意識する
1. 仲間との学びを通して個人の見方、捉え方を広げる
2. チームで行う保育の価値(チーム力)を高める方法を共有する
3. 上司とは異なる、4年目という立場だからできることを考える
4. 人の力を引き出す対話力(コーチング)を身につける
5. 価値観が異なる仲間とどう質の高い保育を展開できるか考える
6. ミドルルーダーとして全体を見る目を備え、後輩育成ができる自分になる
7. なりたい保育者像(ロールモデル)を見つける
7.研修の内容
• STEP1
1:1の個別コーチングセッション(一人30分)。セッション後には、振り返りシート各自記入。「書く」プロセスを通して、思考の整理がなされ、表現力(伝達力)が身につくため。また、研修内容の上司への報告も兼ねる。
◇ コーチがセッション中に投げかけた主な質問
2年たった今の(仕事に対する)満足度は何%?
自分なりに頑張ったことを3つ挙げるとすると?
ロールモデルにしている人は?
その人のどこがいい?
今後身につけたいスキル、考え方は?
もしも、それができたらどうなる?
やってみたいこと・今後の目標は?
気になっていること・課題は?
人間関係について気になることは?
相談できる人は誰?
自分に不足していると思うことは?
1つだけ克服するとしたら?
どうすればいい?
今の自分に何を「プラスα」したい?
3年目の自分はどうなっていたい?
その時の自分から今の自分に一言声をかけて
• STEP2(ワークショップ形式)
節目でもある3年目とはどのような立場かを同期と考える
ホウレンソウがうまくいっていないが故の失敗事例の共有
どうすれば良かったかを、チームで考え発表
チーム力を点数で評価
上げるための取り組みについて共に考える
各園でホウレンソウの徹底のために工夫していることを共有
職場の人間関係をモデル図にまとめ、俯瞰(ふかん)するとともに、よりよくするための具体的可能性を考える
• STEP3(ワークショップ形式)
GROWモデルを利用したコーチング実践練習
テーマを決めて、個人ワーク→グループディスカッション
◎テーマ:
1. 職場の会議に点数をつけてみる
2. そうなっている理由
3. 何があったら10点上がるか
4. 4年目の自分だからできることとは
5. 巻き込むとしたら誰?
8.園長先生方にお願い:1
研修の成果を高めるために
• 何をやっているのか知ってほしい
→意識共有・報告書の閲覧・何なりとご質問ください
• 職場で聞いてもらいたい(確認してもらいたい)
→「何学んできたの?」
• 実践の場を与えてほしい
→会議での報告(発表 or レポート or ワークショップ)
• 学んだことを評価してほしい
→「〇〇が変化してきたね」
9.講師の所感
• STEP1
誰と組むか、どこに入るかが大きい
職場環境にはほぼ満足(優しい)
不満足も時々
自信のなさ
コーチングは自己開示や気づきを促し好評
経験保育者は即戦力として活躍
文章力不足
加配保育の悩み
連携・相談・学びの場の継続が重要
• STEP2
6月から2月にかけて多くの職員の意識が高まる
チームや組織への視点が高まる
ホウレンソウ不足が課題
ミス事例の共有が効果的
事例検討の必要性を感じている参加者が多い
自分の強みを言語化できる職員が多い
課題設定は苦手
成長停滞の懸念(これでいい)
学ぶ環境(見る環境)が必要
加配保育は学びや相談の機会が乏しく孤立感が強い
• STEP3
自己開示が進む
考えの言語化ができるように
組織の課題と個人の課題を分けられるように
コミュニケーションへの関心が大きい
特に、引き出すコミュニケーションの重要性を認識
コーチングロールプレーイングで難しさを実感・実践練習が楽しい
話すことへの慣れ、自分の考えを堂々と話せるように
ここまでやってきたことへの自信
10.見えてきた課題
• STEP1(2年目)
見る・教えてもらえる先輩の存在が有効だが、実際には先輩と組むことが難しい環境が多い
「わからない」が当たり前化してしまう懸念がある
「言いたいことを言えない」環境がありうる(圧力)
若手育成の鍵は主任・副主任など中堅職員であるが、実際に接する機会は少なく、距離は大きい(近い先輩が指導にあたっている)
職場の人間関係のもつれに巻き込まれてしまっているケースも
職員一人ひとりに寄り添い、成長を支える仕組みづくり
コーチングで話した内容を上司と共有する機会があると効果的
• STEP2(3年目)
環境だけでなく本人の心持ちが大きく影響
「何でもできる気分」と「自信喪失」の両極端に揺れやすい時期
マンネリ化から成長欲求が薄れている職員も散見される
自責の念が不足している職員も(〇〇のせい)
上司への敬意の欠如が年々増加傾向に
上司には共感的姿勢と強いリーダーシップの両立が必要
「自由」と「規律」のバランスを取りつつ、任せる機会を増やす
課題発見や改善に取り組む環境整備
• STEP3(4年目〜)
環境や周囲の職員の影響による、個人の意識や成長には大きな差
年齢・経験が異なるパート職員との関係構築への悩みが多い
転職が一般化し、保育職を続ける意志が弱まっている職員も
組織の課題が見える→解決の方法がわからない
今後のキャリアビジョンが描けない(自分には無理?)
ミドルリーダーとしての活躍の場を増やしていく
パート職員や上司との思いを共有し合える場(会議など)が必要
(離職)早期の面談などで悪影響を防ぐ(他者への波及も防ぐ)
11.園長先生方にお願い:2
経験がなくても自信があります
→園として・法人としてのリーダーシップが必要
問題を課題に変え、解決に向かおうとする習慣が必要
→ミス事例(問題)の検討から、取るべき行動を考える
→「どうすれば良かったかな」「あなただったらどうする?」
成長欲求を高めてほしい
→セミナーや研修に出る機会をつくる・質の高い保育実践の共有
最後に…
5年後の社会は大きく変化しています
その頃の「理想的なCOCORO」のイメージをお聞かせください
9月5日の報告会の内容は、以上です。
職員育成は、どこでも取り組んでいますが、COCOROでは、このコーチングを9年継続しています。
継続は力です。
なぜなら、江藤さんとコーチングを受けた職員たちの信頼関係が継続していますから、そこがKEYであり、うちの強みなのでしょう。
あとは、コーチングを受けた職員たちが、コーチングで気づいた保育への思いを、行動に変えて、お互いを高め合えるか。
そして、園長・主任がどこまでコーチングの内容を理解し、コーチングを受けた職員たちの思いをフォローしてあげられるかなのでしょう。
いつも言いますが、客観的に組織と関わってくれる外部講師がいてくれることはありがたいことなんですよ。
江藤さんは、いつでもCOCOROとの関わりを絶つことができるのですから。
江藤さんが関わってくれて、良くなっているねと褒めてもらっているうちが花・・・
みんなでよりよくなれて、更に褒めてもらえる組織でありたいですね。
2025年10月29日
社会福祉法人 鶯園
理事長 小林 和彦
